恋のから騒ぎ
それは昼休み中、十二支高校2年C組で起きた出来事。 学食でラーメン大盛り3杯を胃に収めた猪里猛臣は、程よく膨れたお腹に満足して教室でぼんやりしていた。 既に学校中が公認の仲と認める相方の虎鉄大河はいつものように軟派に忙しいらしく、廊下で女の子を口説いている。 虎鉄の軟派クセは今に始まったことではないので、猪里はその様子を呆れたように見遣りながら、「猪里、ジェラシー感じてくれRu?」とニヤニヤ笑う虎鉄を「ハイハイ」と軽くあしらって教室内でパラパラと本を読んでいた。 誰かが持ってきたのだろう、教室の棚にポンと無造作に置かれてあった雑誌をたまたま手に取っただけだったのだが。 その雑誌はいわゆる女の子向けの雑誌で、「オシャレな春物大特集」やら「おすすめコスメランキング」やら「小物の上手な使い方」など、洋服やら化粧品やら猪里には別にどうでも良いことばかり載っていた。 それらをパラパラと無造作に捲っていた猪里はあるページでふと指を止めた。 それは「コンビニデザート大集合!オススメランキング」という各コンビニ限定デザートなどが紹介されているページだった。 「へ〜、こんなのもあるっちゃね。食べたか〜。」 目を爛々と輝かせ、先ほど昼食を食べたばかりだというのにお腹が空いてくる。 「あ、これはこの前食べたけど、そんなに美味しくなかったっちゃ。うわー、これバリ美味しそう〜!今度虎鉄におごらせるばい。」 食べ物を見ると自然に頬が緩むのか、猪里はニコニコしながら雑誌を見ていた。 「猪里君、何読んでるの?」 「あ、それ今週号?私、まだ読んでないー!」 そこにクラスの女の子達が猪里の読んでいる雑誌を目に留めてわらわらと机の周りを取り囲んだ。 「あ、これ勝手にごめんっちゃ。」 猪里は彼女達が持ってきた雑誌だと思い、慌てて目の前の子に雑誌を渡そうとした。 「あ、いいよ〜、私たちのでも無いし・・・。読んでたんでしょ?何か面白いのでもあった?」 彼女達は笑って、猪里が読んでいる雑誌を覗き込む。 「あ、コンビニデザート特集だー!コレ、美味しいよね〜。」 猪里が先ほど美味しそうだと思ったケーキを指して同意を求めるように猪里を見る。 「あ、それやろ?まだ食べたことなかっちゃん。美味しか?」 「もう、超美味しいよー!!生クリームがとろけるって感じで!!オススメ!」 「これも美味しいよね。ついつい買っちゃうんだよね〜。」 「そうそう。」 「そうなん?じゃ、俺も虎鉄に買わせよう〜。」 コンビニデザート話に花が咲く中、猪里の「虎鉄におごらせる」発言がポロリと出て女の子達はキャーキャー言い出した。 「もう、猪里君ったらラブラブ〜vvv」 「何?虎鉄君に買ってもらうの?」 笑いながらキャーキャー言っている女の子達に猪里は顔を赤くして、ムキになって否定した。 「そっ、そんなんじゃなかって・・・!」 「猪里君、顔赤いよ?」 「ちがっ・・・」 かぁぁぁっといつもより更に赤くした頬で否定されても説得力は皆無である。 女の子達は「まぁまぁ」と笑いながら、猪里の横から手を伸ばして雑誌のページを捲っていった。 「そうそう、これ、おもしろいの載ってるんだよ。ちょっとまって・・・・」 そう言ってパラパラと何ページも捲っていた手が「ココ!」と止まった。 「じゃーん!『アナタと彼の相性チェック!』!ねぇねぇ、猪里君もやってみたら?」 それはいわゆる心理テストのページだった。 「ええっ?!でもっ、」 慌てる猪里をよそに、女の子達は猪里から答えが見えないよう雑誌を取り上げ、猪里の正面に座った。 「じゃ、行くよー?AかBで答えてねv」 わたわたと慌てる猪里を綺麗に無視して女の子は喋りだす。 Q1.彼と待ち合わせ。先に来るのはどっち? A.彼 B.あなた アイツと待ち合わせしたらいっつも遅れてくるし。寝坊しTa〜とか言いながら慌てて走ってくるっちゃね。 でも慌てて走ってくるアイツを見てたら何か、ま、いっか、って思うんやけど。 ⇒B Q2.彼と同じ趣味があるかしら? A.ある B.特にない これはモチロン野球ばい!アイツとする野球は一段と面白いし。 あのバカが打つ瞬間、やけに格好良く見えて悔しい気もするっちゃけどね 。⇒A Q3.一緒にファーストフード店に行きました。一緒の食べ物を頼むことがある? A.ある B.ない 絶対違う食べ物を頼むっちゃ。だってそうしたら自分の分とアイツの分とを味わえるやろ? お得やしね。その店のもん、一通り全部食べたいし。 ⇒B Q4.つまらない喧嘩をしてしまいました。謝るのはどちらから? A.彼の方が多い B.あなたの方が多い うーん・・・。虎鉄・・・から、かな。俺が意地張って口聞かんやったゴメンNaって言ってきてくれて・・・ 俺も悪かったとか思うっちゃけど、何か悔しくてゴメンが言えんっちゃ・・・。 ⇒A Q5.洋服やアクセサリー、彼とペアなものを持っている? A.持っている B.別に持っていない ペア・・・???えーっと、ユニフォームならお揃いなんやけど・・・。でもこれはペアって言わんやろうし。 あ!傘!!この前急に雨が降ってきて、慌てて入ったコンビニでビニール傘買ったっちゃ。 あれもお揃いに・・・なるとやっか??? ⇒A? Q6.二人でカラオケに行くと最初に曲を入れるのはどっち? A.彼の方が多い B.あなたの方が多い これはあのバカやね。張り切って歌うとよ・・・。俺はあんまりカラオケって好かんっちゃけど。 虎鉄が無理矢理連れて行くき仕方なく付いていくとよ・・・。 ⇒A Q7.彼と一緒の週末。どっちが多い? A.外でデート B.家でデート これは・・・Bになるっちゃっか。週末は大抵部活があるし、部活終わったらいつも俺ん家に来るし。 デートじゃなかやけど、家でアイツとごろごろするのも楽しいき好いとうばい。 ⇒B Q8.彼はたばこを吸う? A.吸う B.吸わない この前隠れて煙草吸いようの見たっちゃ。煙草なんか吸ったら体力が無くなるっち散々注意したんばい?! まだ止めとらんっちゃね。俺の前では吸わんけど・・・隠れて吸われるのもむかつくっちゃ。 ⇒A Q9.彼はあなたに「好き」や「愛してる」って言う? A.言う B.特に言わない ・・・・・・煩いほどに言う。俺はそういう大事なことは簡単に言えんっちゃ。 けど、アイツは毎日のように軽く言うけど、言われると・・・嬉しいのは確かばい(/////) ⇒A Q10.一緒に歩く時、彼が右、あなたが左、というように並びが決まっている? A.決まっている B.特にない えっと、これは・・・そういえばそうっちゃね・・・。別になんも考えずにいつもアイツが俺の左側におる。 歩道とかでも当たり前のようにアイツが車道側を歩くし。気付かんかったばい・・・。 ⇒A ⇒⇒⇒結果 甘え上手な彼と意地っ張りなアナタ。 傍から見ればアナタは彼に意地ばかり張っている可愛くない彼女に見えるでしょう。 アナタは彼のことが好きなはずなのに高いプライドが邪魔をしています。 甘えたい彼はそんなアナタの態度を見て不安に思っているはず。 意地ばかり張って彼につれない態度ばかり取っていると、そのうち彼は遠ざかって行くことも。 優しい彼と強気なアナタは喧嘩が絶えないはずよ。 一見すると最悪の相性 「もうよかっ!!」 ガタンッ!と椅子を鳴らして立ち上がった猪里は、女の子が読み上げる診断結果を最後まで聞かず廊下に飛び出した。 ビックリして呆然としている女の子達の耳に廊下から猪里の怒鳴り声が微かに聞こえてきた。 「虎鉄んバカー!!!意地っ張りで悪かったっちゃ!!おまえなんか、おまえなんか、優しくなんかなかっ!!」 「オ・・オイ、猪里・・・・??」 「どうせ俺は意地っ張りっちゃよっ!素直になんかなれる訳なかっ!!」 「猪里、どうしたんDa・・・?」 「こんバカ虎鉄!どっか行くなら勝手に行け!!」 「いや、あの、猪里サン」 「喧嘩が絶えんで悪いかっ!俺を怒らすきさんが悪いったい!」 「A゛〜〜〜〜!!イテェ〜〜!!い、猪里、俺が何したんだYo〜〜!!」 「うるさかっ!!死ねっっ!!」 先ほどの心理テストを猪里は真剣に捉えたらしい。 診断結果を真に受けて、廊下で女の子を口説き中の虎鉄に必殺コンボを繰り出している。 「い、猪里君って・・・単純??」 「何か、可愛いー。」 教室では女の子達が笑いを堪えていた。 廊下であがる虎鉄の悲鳴を日常茶飯事のようにサラリと聞き流して、心理テストはどうであれラブラブだよな〜と羨ましく思う彼女達。 その中の一人がふと不思議に思って、結果を読み上げていた女の子に聞いた。 「ねぇ、本当に最悪の相性だったの?」 ニヤニヤと何故か一人でにやけながら雑誌に目を向けていた女の子は悪戯っぽく笑うと「ううん」と横に首を振った。 「診断結果が最悪の相性だなんて私言ってないよ。猪里君が勝手に勘違いしただけ。だって途中までしか言ってないのに出て行くんだもん。ビックリしちゃった。」 「えっ?!じゃぁ最悪の相性って・・・」 「さっきの続き読むね。 一見すると最悪の相性にも見えますが、頼りない彼にはアナタのような強気な彼女が必要なはず。 喧嘩が絶えないのはコミュニケーションの一部。あまり深く考え込まないで。 意地っ張りなアナタが唯一本音を曝け出せるのは彼だけじゃないのかな? そんなアナタ達の相性は 『喧嘩するほど仲が良い、本人達は気付いてないけどラブラブぶりを自然に見せ付けている、ラブ度数95パーセント』 です。 だって。」 呆れたように肩を竦めた彼女に同意するように、教室内の女の子達は廊下から聞こえてくる虎鉄と猪里の痴話喧嘩を聞きながらナルホドと頷いた。 「つまり、バカップルってことが心理テストでも実証されたってことね。」 この後、正しい診断結果が猪里の耳に届いたかどうかは・・・・わからない。 ―――― verry verry thanks to you. with LOVE |